日本経済の救世主!? 『MMT(現代貨幣理論)とは何か』⑥ラスト
前書き
続いて『MMTとは何か』の第三部の第八章について書いていきたいと思います。
第三部 MMTから見た日本経済
第八章 日本経済には何が必要なのか
緊縮財政を廃し、財政支出拡大や減税をより積極的に行うべきであるというのが、日本に対するMMTの提言です。
経済全体で見れば、財政赤字は必ずしも政府の過剰支出を意味するわけでなく、「別の誰かの過小支出=政府の過小収入」の結果に過ぎない可能性もあります。経済全体としてどちらがより当てはまるかを判断する上で、有力な指標となるのがインフレ率です。そして、20年以上という異例の長期デフレが続いている日本では、「別の誰かの過小支出」の方が経済全体を主導していることは、容易に想像がつくでしょう。
しかも、デフレとは国民の生活を脅かす恐ろしい現象です。
デフレ下では、支出額すなわち需要が過小な状態であるため、企業がモノやサービスを生産しても思うようには売れません。したがって、企業はそれに対応した合理的な行動として、生産能力とコストを削減しようとします。製造業であれば工場、小売業であれば店舗を売り上げ不振で閉鎖するのが典型です。
そして、生産能力を削減すれば、生産活動に携わっていた従業員が不要になります。さらに、生産規模が縮小すれば管理部門の従業員もそれまでほどは必要なく、コスト削減の観点からも人員を削減するのが、やはり企業にとって合理的な行動になるでしょう。
さらに、生産能力増強のために行った過去の投資がデフレで採算が合わなくなれば、企業は過去の投資で背負った借金の返済を優先するようになり、将来の投資にも後ろ向きになります。こうして、生産能力や雇用、そして投資を縮小しようという空気が支配的となれば、新しい技術や事業にチャレンジしようという意欲も全体として低下します。
そして、こうしたデフレメカニズムの恐ろしさは、放置すれば自己増幅する構造を持っていることです。デフレによって企業が投資や雇用を抑制すれば、家計の購買力も減少してますますモノやサービスが売れなくなり、さらにデフレが進行します。
こうした日本の現状は、MMTが公共目的として掲げる完全雇用の想定とはほど遠く、しかもデフレです。MMTによれば、政府は過小である総支出額を適正な水準に引き上げるため、財政支出を拡大したり、減税を行うべきということになります。
では、金融緩和はなぜ、財政支出と比べて経済効果が乏しいのでしょうか。
財政支出は、財やサービスの生産活動にかかわるものであれば、それ自体が国内総支出としてのGDPを増やします。
さらに、財政支出は、支払先である家計に対し、同額の収入と資産としての民間銀行預金をもたらします。家計は獲得した預金や、政府から収入を裏付けとした借入れを原資として投資や消費を増やすことから、GDPはさらに拡大すると想定されます。そして、そうした家計支出は企業や別の家計の収入、そして金融資産となることから、それを裏付けとした民間部門の投資や消費が一段と喚起され、GDPはより一層拡大します。
これに対して、量的緩和は単なる金融取引であり、それ自体はGDPを増やしません。また、家計や一般企業の収入や金融資産は何も変わらないので、財政支出のときのような派生的な支出増加も見込めません。
もちろん、民間銀行が獲得した中央銀行当座預金を準備金として活用し、その分だけ貸出を増やせるというのであれば、借り手はその分だけ何らかの形で支出を増やすでしょうから、GDPの押上げ効果が期待できます。しかしながら、これは第二章でも確認したように、外生的貨幣供給論という誤った理論に基づく机上の空論に過ぎません。
現実には、貸出によって創造されるマネーストックはバブル経済が崩壊した1990年代以降伸び悩み、貨幣乗数も急激な低下を続けています。これは過剰に供給されたマネタリーベースが経済活動に全くといってよいほど貢献せずに放置され、外生的貨幣供給論がまるで成立していないことを示しています。