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ヨシヒロの読書ブログ

ヨシヒロの気が向いたときに読書記録をつけていくブログ(小説・文学・哲学・心理学・経営・経済・ビジネス)

ストラクチャーから書く小説再入門 第17章

シーンの「災難」の選択肢

「災難」はシーンのオチであり、読者が心待ちにするところです。シーンは「ゴール」と「葛藤」で出した問いに「災難」で答える三段構え。問いが「僕は隣の女の子とデートできるだろうか?」なら、答えはイエスかノーのどちらかです。

 

少し前に「災難」という言葉が好きになれない人もいる、と述べました。なぜなら、「災難」と聞けば、どのシーンも必ずハラハラ、ドキドキで終わらせろ、と強制されているような気がするからです。

 

でも、ご心配なく。ストーリーに合わせて「災難」は色々なサイズや形に変えられます。「災難」の役目は惨事を起こすことではなく、プロットを前進させることです。失敗も問題も起きなければ何もかも主人公の思うままですから、葛藤せずに物語が終わってしまいます。

 

ですから、あえて「災難」と強調しておきましょう。人物がゴールを目指して障害に出会い、結果に失望するような流れを考えたいのです。手も足も出ない状況に封じ込めろという意味ではありません。

 

「がっかりすることもあったけど、うまくいった部分もあるから、次の目標に向けてがんばろう」と思える状況でもいいのです。要は、うまくいっている時でも軽いプレッシャーを与えること。シーンで「災難」を乗り越えていくたびに、本人は意識していないけれど本当に必要としているものに近づいていきます。

「災難」を災難らしくするために

「災難」はシーンの発火点。パチンと火花を飛ばせるか、不発になるかの瀬戸際です。人物に厳しい結果を与えましょう。「災難」が甘ったるいと読者は満足できません。「災難」にパワーがないと、それに対する反応を描くシークエル部分にも力が出ません。必然的に、次のシーンへの架け橋も弱体化してしまうのです。

 

では、どれだけパワフルな「災難」を書けばいいかと言うと、人物やプロットの要求次第。「ケーキを焼くが、焦がしてしまう」だと、スパイ小説には不釣り合い。ライトノベルならいいかもしれません。チアリーダーと仲良くしたい女子高生が「手作りのおっきなデコレーション・ケーキを持ってくるね」と約束する話なら、なかなかのリアクションが期待できます。

 

災難らしくする共に、ストーリーの世界観から逸脱しないことも大事です。お菓子作りが趣味の女子高生のキッチンに核爆弾が落ちると、災難としてレベルが大き過ぎますし、話の流れにも合わないでしょう。登場人物がみんな吹っ飛ばされてしまっては、話も当然、続きません。

「うまくいったと思いきや」の災難

プロットの進行上、あえて「災難」を災難らしく見せない時もあります。「ゴールの部分的な妨害」もしくは「うわべだけの勝利」を描く場合です。

 

「『うまくいったと思いきや』の災難」とは、シーンの中で人物が「うまくいきそうだ」と感じたり、確実に成功を収めたかのように見えたものの、後になって不都合な事実が発覚するパターンです。

 

「ゴールの部分的な妨害」とは、相手からの条件つきの「イエス」がもらえた場合や、人物が期待通りの結果を得られない場合などです。

 

「うわべだけの勝利」とは、人物がいったん成功を収めるものの、後になって、むしろ成功しないほうがよかったと気づくパターンです。

シーンの「災難」の選択肢

「災難」とは「まずい結果、よくない出来事」ですから、シーンを構成するブロックの中で最も見つけやすいです。おおまかに、次の種類に分けられます。

 

1 ゴールへの道が直接的に妨害される(例:情報がほしいのに、相手が教えてくれない)

2 ゴールへの道が間接的に妨害される(例:出世コースを外される)

3 ゴールへの道が部分的に妨害される(例:必要なものが部分的にしか手に入らない)

4 成功したかに見えるが、実は失敗だったことがわかる(例:ほしいものを手に入れるが、むしろそれが害になることが発覚する)

 

ちょっぴりサディスティックな想像をしてみましょう。「災難」の例をいくつか挙げてみます。

 

1 死。

2 身体が傷つく。

3 心が傷つく。

4 よくない知らせを受け取る。

5 人物自らミスを犯す。

6 人物自身に危険が及ぶ。

7 誰か他の人物に危険が及ぶ。

シーンの「災難」を考える時に

シーンの「災難」を考えたら、次の質問に答えて下さい。

 

1 シーンのゴール設定時に作った問いへの答えになっているか?

2 シーンにうまく溶け込んでいるか?

3 「災難」の程度は軽すぎないか?

4 「災難」がおおげさになっていないか?

5 シーンの終りで人物が半ばうまくいきかけているなら、後に「うまくいったと思いきや」と言わせる展開が用意されているか?

6 その「災難」を経て人物が新たなゴールに向かっているか?