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ヨシヒロの読書ブログ

ヨシヒロの気が向いたときに読書記録をつけていくブログ(小説・文学・哲学・心理学・経営・経済・ビジネス)

ストラクチャーから書く小説再入門 第18章

シークエル

「シーン」前半で出来事や人物の行動を描いたら、後半はシークエルと呼ばれる部分で人物のリアクションを描きます。出来事や行動を書くだけでは、物語はうまく伝わりません。人物が出来事をどう思い、何を考えるかを描くことも必要です。シークエル部分では、人物が過去を省みたり、落ち着いて会話する様子を通して内面の変化を表現します。

シークエルを作る三つのブロック

シークエルも三つのブロックで成り立ちます。三つをうまく使えば、抑揚のあるドラマが描けます。

第一ブロック:リアクション

このブロックで中心となるのが「リアクション」の描写です。語り手が前の出来事を振り返って考える内容を描きます。ここで読者も、語り手が何をどう感じているかを読み取ります。このブロックがなければ感情は読者に伝わりません。物語でどんなバトルを描こうと、人間的な反応が書かれていなければ心に響かないからです。

 

再び、収容所の例を出しましょう。捕虜が衛兵を買収しようとして、独房に放り込まれることになりました。これはわりと大きな「災難」です。ここまで書いたら、彼のリアクションが目に浮かぶでしょう。叫びながら引きずられていくか、何食わぬ顔をしながら心の中で悔しがるか、衛兵にくってかかるか。彼の反応を描けばストーリーががさらに発展し、心理描写もできます。

 

経験の浅い書き手の中には、リアクション描写が抜けていることに本人が気づいていないケースがよく見られます。なぜそういうことが起きるかと言うと、人物にどっぷり感情移入して書いているからです。人物の気持ちになりきって書いているうちに、読者も同じ気持ちだろうと思い込んでしまうのです。人物の心理は文脈からも想像できますが、きちんと書いておきましょう。

 

リアクションの描写は、出来事や行動描写の間に書いてもかまいません。簡潔にまとめて書いてもいいし、心の声や会話でじっくり綴ってもいいでしょう。どこにどれだけ書き込むかは作品次第です。シーン部分で描くアクションの分量と、うまくバランスをとって下さいね。

第二ブロック:ジレンマ

「災難」に遭遇した人物は反応した後、ジレンマに襲われます。わかりやすく言えば、「じゃあ、どうしよう?」。実際はもう少し具体的です。

 

「どうすれば、この災難をなかったことにできるだろうか?」

「どうすれば、親友に事実を知られないで済むだろうか?」

「どうすれば、補導員に見つからずに逃げられるだろうか?」

「息子が家を出ていく前に、どう謝ろうか?」

 

捕虜収容所の例なら、「この独房で正気を保ち、一刻も早く出るためにはどうしようか?」と、「衛兵の買収は、もう無理だ。じゃあ、独房を出た後、どうやって収容所から逃げようか?」。

 

シーンの結果が「災難」になって新たな問題が生まれ、シークエル部分で状況を分析し、手段を見つけようとする。そして次のシーンで実行する、という流れになります。

 

ジレンマは文脈から読みとれることも多いでしょう。捕虜が独房でくさっていれば、彼が困っていることは明らかです。それでも、文章に書き表していけないことはありません。特に初期の原稿できちんと書くようにすれば、書き手自身が人物の心理を把握するのに役立ちます。「わかりきったことを書いているなあ」と思ったら、後で削除すればいいのですから。シーン同様、焦点をタイトに絞って仕上げましょう。

第三ブロック:決断

人物はジレンマを経て決断します。次のシーンに移るためには新たなゴール設定が必要。うまくいくかは別として、新たな計画を立てなくてはなりません。

 

ここは人物にとっての作戦タイム。大敗を喫し、戦略を練り直しにかかります。地図を広げて反省点を話し合い、新たな手を考える。流れが一旦落ち着くわけですが、「次はどうする?」と緊迫感が高まりますから、楽しいアクション描写に引けを取らないほどエキサイティングになるでしょう。

 

収容所の捕虜は独房で必死に考え始めます。憎たらしい衛兵を買収するか、脱走そのものをあきらめてしまうか。何かを決断するまで、シークエルは終わりません。次の動きが決まれば新たなゴールができ、次のシーンへと移れます。

 

このように、シーンとシークエルはひと続き、切っても切れない道理ですから、片方を失えばプロット進行に打撃を与えるほどです。「災難」の後で、「ジレンマ」に苦しみ、抜け出すために、「決断」する。その「決断」が次のシーンの「ゴール」を表す、という筋道を覚えておきましょう。

葛藤かテンションか?

どちらかと言うと、シークエル部分には葛藤よりもテンションが表れます。この区別は重要です。葛藤を前面に出して書き続けると、物語のペースがどんどん上がって読者を疲れさせる可能性があります。人物の心情を書く余地もなくなります。怒涛のスピードで展開したい作品でも、少しは人物のリアクションを書き入れて息抜きをしましょう。

 

葛藤とテンションは似たような意味でよく使われます。二つが同じだからではありません。ストーリーの中で、似通った働きをするからです。

 

「葛藤」とはぶつかり合いや困難との遭遇を指します。口論する二人。戦争をする二つの軍。あてにしていた宝くじの当たり券を失くしてお金に困る、というのも葛藤です。

 

「テンション」は将来起こりえる葛藤に脅かされている状態を指します。シークエル部分で描くのはこちらです。例えば、地下に隠れて次の砲撃を待つ兵士の場面にはテンションがあります。これから大変なぶつかり合いが起きそうだ、と人物も読者も感じるからです。

 

葛藤とテンションはピストンのようなもの。押したり引いたり、互いに連携してメリハリを作ります。どのページも葛藤で埋め尽くせば、かえって単調になってしまって「あれ?」と思うことでしょう。

 

テンションの仕組みを理解して使えば、穏やかな場面を書く時も読者の興味を持続できるでしょう。緊迫感が高い場面は「何かまずいことが起きそうだ」と感じさせるため、読者はぐっと膝を乗り出すのです。