経済学とは何か? 2020年1月時点のまとめ
- ミクロ経済学
- ゲーム理論
- 産業組織論
- 契約の経済学
- オークション理論
- マクロ経済学
- 主流派の金融経済学(金融論)
- 計量経済学
- ポストケインズ派経済学(ポスト・ケインジアン)
- マルクス経済学
- アナリティカル・マルキシズム(数理マルクス主義)
- 経済史
- 経済学史
- 経済数学
経済学についての私見。
数理モデル:現実の対象を数学的に記述可能な範囲で記述し直したもの。主流派経済学は、通常、数理モデルを用いる。
ミクロ経済学
個々の経済主体(消費者、企業)の経済行動を律する動機・誘因を解明し、また結果の良し悪しを国民一人ひとりの利害関係をもとに判断する。経済主体は合理的な選択をすると仮定され、それを数理モデルで記述する。ミクロ経済学を新古典派経済学(ネオクラシカル)や価格理論ということもある。
部分均衡理論
一つの市場だけに注目し、他の事情(他の市場の価格や所得)が一定と仮定し、当該市場だけに注目して行う経済分析のこと。
※「市場」とは、需要と供給が出会う概念的な場所である。
静学的一般均衡理論
需要と供給が等しいところで価格が決まるなら、価格がある財(商品やサービス)の市場の需要と供給はすべて等しくなっているはずである。一時点におけるすべての市場の需要と供給が等しい状態を分析するのが静学的一般均衡理論である。
以下に有名な定理を記述する。
ワルラス法則:
N個の市場のうちN-1個が均衡すれば、残りの1個の市場も必ず均衡するという法則。
厚生経済学の第1基本定理:
完全競争均衡はパレート効率的である。
※完全競争とは、市場に多数の生産者と消費者がいるため、個々の生産者や消費者が生産や消費を変えても、市場で成立している価格には影響がないような状態のこと。
※パレート効率的とは、誰の効用(満足)を下げることなく、少なくとも一人の効用を上げることがもはやできない状態。
厚生経済学の第2基本定理:
いかなるパレート効率的な配分も、一括固定税と一括補助金を使った所得再配分を行えば、完全競争市場均衡として実現できる。
※一括固定税とは、消費量や供給量とは無関係に固定された金額を、一括して税金として徴収すること。一括補助金はその逆。
ゲーム理論
経済分析を行う際の数学的手法の一つ。もとは応用数学として発展した。合理的なプレーヤー同士の戦略の読み合いとして、ゲームを数学的に記述したもの。アインシュタインと並ぶ20世紀の天才であるジョン・フォン・ノイマンという数学者が研究を始め、後述の非協力ゲームの定和(ゼロサム)ゲームの解の存在を証明し、続く天才数学者のジョン・ナッシュが、非定和ゲームの解の存在を証明した。
主に部分均衡理論(後述の産業組織論)などで用いられるが、一部、マクロ経済学(後述の動学的一般均衡理論)でも用いられる。
各プレーヤーがそれぞれ独自に戦略を決定する非協力ゲームと、ゲームのプレーヤーが協力し合って提携を形成する協力ゲームがあるが、経済学への応用上は、非協力ゲームがよく用いられるので、以下に非協力ゲームについて記す。
非協力ゲームにおけるゲームの解のこと。ゲームに参加しているすべてのプレイヤーが、お互いの戦略を読み合ったうえで、最終的にたどり着く状態。すべてのプレーヤーの戦略が、他のプレーヤーの戦略に対し最適となっていること。
戦略系ゲーム:
ゲームのプレーヤーが同時に戦略を決定するゲームのこと。ジャンケンは戦略系ゲームである。
ゲームの要素として、プレーヤーと戦略、ゲームの結果を表す利得がある。
展開系ゲーム:
ゲームのプレーヤーに手番やターンがあり、手番に沿って行動を行っていくゲームのこと。チェスや将棋、碁、麻雀などがあてはまる。展開系ゲームにおける戦略とは、各手番でどのような行動をとるかを事前に計画した行動計画のことを指す。
手番に自然現象などの偶然が引き起こす確率を設定することがあり、これを偶然手番という。麻雀で最初に牌が配られるのはこれに当てはまる。
また、どこかの手番が観察できない場合、その手番に想定される行動についての情報の集合を情報集合といい、情報集合の集まりを情報分割という。
展開系ゲームの要素として、プレーヤーと戦略、ゲームの結果を表す利得、ゲームの手番を表すゲームの木、情報分割、偶然手番の確率がある。
情報不完備ゲーム:
展開系ゲームにおいて、最初の手番が偶然手番であり、偶然手番がプレーヤーにタイプ(私的情報)を付与するゲームを情報不完備ゲームという。麻雀で各プレーヤーに最初に配られた牌をタイプと考えるとよい。ベイジアン・ゲームとも呼ばれる。
情報完備ゲーム:
情報不完備ゲームでないゲーム。
サブゲーム完全均衡:
情報完備な展開系ゲームにおいて、各手番以降のゲームの木を、サブゲームという。各プレーヤーが、各サブゲームにおいて、最適な行動計画をとるような戦略を立てている場合のナッシュ均衡を、サブゲーム完全均衡という。
信念:
情報不完備ゲームにおいて、あるプレーヤーが、ある情報集合νが到達された際に、他のプレーヤーのタイプがtであるだろうと推測した確率を、信念という。
整合的な信念:
各プレーヤーの戦略のもとで、情報集合νが到達される確率でもって、信念を割り算したものを、戦略に対し整合的な信念という。言い換えれば、整合的な信念とは、情報集合νが到達されたという条件のもとで、あるプレーヤーが、他のプレーヤーのタイプがtであるだろうと推測した確率のことである。
ただし、情報集合νが、各プレーヤーの戦略のもとで到達されない場合、任意の信念が整合的な信念となる。
完全ベイジアン均衡:
情報不完備ゲームにおいて、すべての情報集合において、すべてのプレイヤーの信念が戦略に対し整合的であり、かつ他のプレーヤーの戦略に対し最適であるようなナッシュ均衡を、完全ベイジアン均衡という。
産業組織論
部分均衡理論の応用分野。主にゲーム理論を用いて分析がなされる。
市場において、どの程度企業に市場をコントロールする力を許容するのが望ましいだろうか? という問いを立てた場合に、市場がどのように成り立っているか(市場構造)と、市場で操業する企業がどのような行動をとるのか(企業行動)の相互連関関係を解明し、上記の問いに対する回答を与えることを主眼とする。
契約の経済学
取引を行う経済主体間に、情報の非対称性(情報の格差)がある場合に、どのような価格や品質についての契約が成立するかを、ゲーム理論を用いて研究する分野。
オークション理論
取引を行う経済主体間に、情報の非対称性(情報の格差)がある場合に、オークションでどのような結果がもたらされるかを、ゲーム理論を用いて研究する分野。
マクロ経済学
複数の市場の集計化された経済活動を分析の対象とする経済学。
オールドケインジアン
ミクロ経済学的な基礎を持たない主流派のケインズ経済学。財市場を均衡させる実質利子率とGDPの組み合わせの軌跡を描いたIS曲線と、貨幣市場を均衡させる実質利子率とGDPの組み合わせの軌跡を描いたLM曲線の交点で、財市場と貨幣市場の同時均衡を考えるIS-LM分析が有名。
静学的一般均衡理論
ミクロ経済学で前述の通りであるが、静学的一般均衡理論は複数の市場の集計化された経済活動を表しているので、ミクロ経済学であると同時にマクロ経済学でもある。
動学的一般均衡理論(動学マクロ経済学・マクロ経済動学)
静学的一般均衡理論が一時点を扱うのに対し、動学的一般均衡理論は、複数期間にまたがる一般均衡理論を扱う。通常、経済がいつ終わるかが分からないので、無限期間が想定される。ドブリュー=マンテル=ソネンシャインの定理という非常に高度な定理の関係で、ミクロ経済学で扱う所得効果は、通常ないものと仮定される。
また、制御工学において用いられる数学である、ハミルトニアンやダイナミック・プログラミングなどが用いられる。
完全予見:
リスクや確率のない動学的一般均衡理論において、各経済主体が将来を完全に正しく予想することができるという仮定。経済主体は、すべての財の価格を将来にわたって知ることができ、そのもとで消費や貯蓄の意思決定を行う。
合理的期待形成仮説:
完全予見をリスクや確率のある動学的一般均衡に拡張したもの。
簡潔に言えば、各経済主体は、将来にわたって世界と財の価格の客観的確率分布を知ることができる。
マルコフ完全均衡:
動学的一般均衡に何種類か(三種類程度)の経済主体が存在する場合、ゲーム理論を用いて、動学的一般均衡をそれらの経済主体のゲームとみなすことができる。ゲームが完備情報であり、経済システムの状態が観察可能で、ゲームのプレイヤーの戦略がゲームの歴史に依存しない場合のナッシュ均衡である。
リアルビジネスサイクル理論
動学的一般均衡理論にリスクや確率を導入した理論。景気循環を確率的なショックとして表現する。通常、代表的個人が仮定される。
※代表的個人とは、その経済主体の行動が、経済主体全体の行動を代表して表現しているという程度の意味である。
後述の価格の硬直性を含まないリアルビジネスサイクル理論をニュークラシカルということがある。
ニューケインジアン
リアルビジネスサイクル理論に、価格の硬直性と、貨幣から得られる満足として、流動性選好を組み込んだ理論。貨幣供給量の増加が経済厚生を改善することが示される。
経済成長理論
動学的一般均衡理論を用いて、経済成長の原因を分析する分野。技術革新や政治制度の違いなどで、国ごとの経済成長の格差を分析する。
世代重複モデル
動学的一般均衡理論の特殊ケース。ニ世代か三世代の経済主体が存在するケースを扱う。応用研究上は使い勝手が良く、年金問題の分析などに用いられる。
一時的一般均衡理論
完全予見や合理的期待形成仮説が採用される以前の複数期間(ニ期間)の一般均衡理論。現在ではまず研究されていない。
主流派の金融経済学(金融論)
主流派の真骨頂である一般均衡理論は、原則的には、貨幣や金融を必要としない物々交換経済をモデリングしたものであり、古典的に言われるように、貨幣は実体経済に対して中立的で、ヴェールに過ぎない。
そのため、貨幣や金融を分析しようにも、分析の遡上に乗せることがそもそも困難であり、この問題を回避するアプローチが並行して進んでいて、全体像がわかりにくい。
分析のアプローチは三つあり、それぞれ
①金融をリスク分担の問題と捉える金融工学的アプローチ
②金融を情報の非対称性の問題と捉えるゲーム理論的アプローチ
③金融を貨幣効用の問題と捉える一般均衡動学的アプローチ
である。(数学的にはどれも最適化と確率論と統計学ではある)
計量経済学
経済学の理論モデルを、現実のデータを使って、統計的に検定する分野。
ポストケインズ派経済学(ポスト・ケインジアン)
異端派のケインズ経済学。有効需要と歴史的時間を本質的特徴として有する。
最近話題の現代貨幣理論(MMT)もここに含まれる。
マルクス経済学
労働価値説を採用し、搾取によって資本が自己増殖をするという経済理論。
※労働価値説とは、財の価格が投下された労働の価値で決まるというもの。
アナリティカル・マルキシズム(数理マルクス主義)
マルクス経済学の主張を数学的なモデルで記述したもの。
経済史
歴史学的な観点から経済現象の解明を行う分野。
経済学史
経済学の歴史を研究対象とした分野。
経済数学
数学の中から、経済学で用いられるものを抜き出したもの。