ストラクチャーから書く小説再入門 第5章
第5章 第1幕 パート2:危機と舞台設定の紹介
人物紹介と共に、第一幕では舞台設定と「危機に晒されている大切なもの」を伝えます。それは、読者に物語を味わう心の準備をしてもらうため。
舞台劇やミュージカルのパンフレットに少し似ています。メインのキャストを紹介し、この先、何が起きそうかを感じ取ってもらいます。
「危機に晒されている大切なもの」の紹介
人物の登場と同時に、その人物の「大切なもの」も紹介します。その人物が必死で守りたいものです。
後にこれをめぐって戦うことになりますから、「大切なもの」を脅かす存在も紹介します。つまり、「敵」も第一幕で紹介するということ。あるいは、少なくとも存在をにおわせておきます。
読者のためを思うなら、人物に対して非情になりましょう。まず手始めに、人物に起り得る最悪の事態を考えます。思いついたら、それよりももっとひどい事態を考えます。
会社をクビになる。それよりももっとひどいことは?
クビになり、娘が誘拐される。まだ最悪ではなさそうです。
娘が大統領と一緒に誘拐される。敵は恐ろしいエイリアンで、天候は大吹雪。世界を破滅に導く核戦争が勃発寸前。
ここまでくれば危機感がありますね。さらに悪条件が追加できるか考えてみて下さい。
また、人物が物語でたどる変化や成長にも合わせることが大事です。
核戦争を生き抜いてこそ成長する人物がいる一方、こまやかで身近なレベルの危機を体験して変わっていく人物もいるはずです。
危機のセットアップは第一幕から計画的に行います。「娘の誘拐」が危機なら、主人公にとって娘がかけがえのない存在であることを紹介します。このセットアップなくして危機感を盛り上げることは不可能です。
物語が進むにつれて事態は悪化します。やがて大勢の敵に囲まれた人物たちは、それまで自分を守ってくれていたものが通用しないことに気づきます。時間はどんどん足りなくなってくる。全員に大打撃を与えるような新事実の発覚が迫る。
そういった仕掛けが意味をなすのも、人物たちが守り抜かねばならないものを先に伝えておいてこそ。派手なアクション描写は後回しでかまいません。
人物が何に対して「どうしても、これを守らねば!」「手に入れなければ全て終わりだ!」と思っているかを描けば、読者も息をこらして見守ってくれます。
家族や仕事、名誉などに対する人物の思い入れを描写すればするほど、後でテンションを高めることができます。この「思い入れ」描写ができる場は、第一幕が最初で最後。ストーリーが始まってから、全体の25%あたりまでで描いておきましょう。
第一幕の終りでプロットが大きな転機を迎えれば、ストーリーは一気に加速します。そうなってからでは人物の状況説明ができにくくなってしまいます。