ストラクチャーから書く小説再入門 第4章
第4章 第1幕 パート1:登場人物の紹介
読者の心を掴んだら、本の最初の二〇~二五%で人物や舞台設定、危機を紹介します。
「そんなに紹介部分が長いの?」と感じる人もいるでしょうが、この先、本を最後まで読んでもらうためには最初の四分の一で基礎を敷かねばなりません。人物や設定を紹介しながら感情移入を促し、さらに深く引き込みます。
本の最初の二五%で、ストーリーに出てくるものは全て登場させましょう。
アントン・チェーホフの「第一幕で壁にピストルがかかっていたら、後の幕で発砲されなくてはならない」は有名な言葉ですが、その逆も真実。
後半で銃を撃つなら、その銃を第一幕で登場させるべきなのです。第一幕で読者に見せたものだけで残りが展開できるようにする。これが第一の仕事です。
次の仕事は、読者に人物を知ってもらうこと。彼らは誰? 性格は? ものの考え方(特に、作中で試されたり強められたりする信条)は?
人物を知ってもらったら、何が危険に晒されていて、何と対立しているかを見せながらプロットを進め、やがて大きな転機が訪れるという流れになります。
まず読者に人物のことを知ってもらってからプロットを発展させましょう。最初の二五%を紹介に当ててから物語に大きな転機を起こし、次に五〇%、七五%の地点でまた転機、というのが理想的なペースです。
人物を発見する
私がストーリーを考える時は、大抵、人物から始めます。その人が心のドアをノックして、開くとそよ風、時に疾風が吹き込んで、この感じ、ご想像頂けると思います。
その人に私は魅了され、その人のことをもっと知りたくなり、虜になってしまいます。恋に落ちるのと似ています。
嵐のようなその間、他の登場人物たちを忘れがち、しかし、いざ執筆となったらえこひいきは厳禁です。悪者含め、どの人物にも等しく愛を注がねばなりません。
なぜなら書き手の思いは言葉の端々に表れ、行間からにじみ出るからです。嫌いな人物を書く場合、読者はそれを感じ取るでしょう。その人物の視点で書く時も嫌悪の感情は取り去れず、リアリティは壊れてしまいます。
ある意味、作家は役者でもあります。人物の視点で書く時は、その人になりきらなくてはなりません。その人物を愛せなければ理解もできない。批判的に見下しながら書くことになりかねません。
表現者は創作上の人物たちと彼らの言葉を評価せず、ただ公平な観察者であるべきだ。(アントン・チェーホフ)
主人公を好きになるのは造作もないことでしょう。しかし、その主人公でさえ、いやな一面を見せなくてはならない時もあります。
登場人物一人ひとりの心を深く探り、行動の理由を考えましょう。その理由を受け入れて「わかった」と言える気持ちになれないなら、まだ小説は書けません。
人物を知り、人として認めることができたら、大胆に書きましょう。はっきりと、遠慮せず。書き手は「こんなことしちゃ、だめじゃないか」と人物を叱る立場にいませんから。
判事が(人物を)裁けばいい。私の仕事は人物の人となりを見せることだけだ。(アントン・チェーホフ)
素敵な人物が偶然に書ける時もあるでしょうが、そうでない時は仕方ありません。書き手の方から働きかけて、その人物を魅力的に、面白く作らなくてはなりません。単純な公式はないのだと思います。私たちにできるのは、文学や映画の実例に学ぶことです。
まずメモ用紙にあなたの好きな人物をありったけ書き出しましょう。次に、その人物たちが好きな理由と、印象に残る特徴を書き添えます。特徴は、できるだけ一語で簡潔に、後で自分の人物作りに当てはめられるように、一般的な言葉を選びましょう。
この方法は、描きたい性質を多角的に把握するためのもの。求める人物像によってリストに上がる単語は様々でしょう。
全ての特徴を自然に溶け合わせることが大切です。「タフで、勇敢で、優しいヒロイン」でもいいでしょうが、人柄や経歴、動機と照らし合わせ、人格としてまとまりがあるか、また、見栄えのために無理やり加えたものがないか確認して下さい。
紹介が必要な人物は?
主要な人物が登場するタイミングは作品によって様々ですが、一般的に、主な登場人物は第一幕の終わりまでに全員登場させておきます。
例外もありますが、第一幕より後に初登場させるなら、あらかじめ計画を立てましょう。思いつきで新しい人物を投入すると、うまくいきません。
第一幕で紹介しておきたい人物を挙げておきます。
・主人公
なるべき早いうちに登場させ、「この人物の物語だから、ずっと注目しておいて」というシグナルを読者に送る。
・敵対者
主人公と同様、早めに紹介。主人公との対立関係を見せ、危機的状況についての伏線を張る。それが無理なら、少なくとも、存在をほのめかしておく。
・恋愛対象
ラブストーリーはもちろん、恋愛がサブプロットの場合も、主人公が思いを寄せる相手は早めに紹介。恋の行方を明らかにする必要はないが、相手が大事な存在だということは示しておく。
・親友、助手
登場しては消えていく脇役は、重要度がまちまち、作中ずっと主人公の傍にいる人物がいれば、プロットが最初に転機を迎える前に、簡単に紹介するとよい。
・師と仰ぐ人物
脇役の中で忘れがちなのが、先輩や師匠のようなキャラクター。役割の大小に合わせ、第一幕か第二幕のどこかで紹介するとよい。突然都合よく登場させず、前の方で存在に言及しておきたい。
人物紹介をするために、プロット展開を犠牲にする必要はありません。初めからドミノ倒しを意識してプロットを前進さてください。ただし、急いでアクションを詰め込まないように、人物の肉づけを行うチャンスをぜひ生かして下さい。
登場する人物や舞台設定によっては、紹介に複数のシーンを当てたもいいでしょう。一度に大勢を登場させなくて済み、それぞれの性格描写をするゆとりができます。
人物にふさわしい名前をつけ、外見が目に浮かぶよう描写をすれば、読者が「これは誰だっけ?」と迷うこともなくなるでしょう。
複数の人物を一度に紹介しなければならない時は、個性をはっきり描き分けること。