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ヨシヒロの読書ブログ

ヨシヒロの気が向いたときに読書記録をつけていくブログ(小説・文学・哲学・心理学・経営・経済・ビジネス)

ストラクチャーから書く小説再入門 第16章

シーンの「葛藤」の選択肢

人物のゴールが決まったら、お楽しみの始まりです。必ず障害をぶつけて葛藤を起こしましょう。そうしなければ一瞬でゴール達成。全てにうまくオチがつき、ハッピーエンドで終了です。登場人物にとっては都合がいいかもしれないけれど、読者は呆れてしまうでしょう。

 

それとは逆を行きましょう。さあ、舞台をご覧下さい。

 

一人の男が、楽しげにスキップしながら目的地に向かいます。もうすぐクリスマス。彼は孤児たちに寄付金を届けようとしています。すると、じゃじゃん!悪者たちが躍り出て、「そのカネを全部よこせ」と通せんぼ。

 

途端に面白くなりますね。かわいそうな孤児たちにお金を届けられるのか、ぐっと興味がわくでしょう。

 

葛藤が起きると物語は進展します。妨害されたら、新たなゴールに進路変更せねばなりません。すると再び葛藤にぶち当たり、またゴール変更。この連鎖を続けていって、人物がついに思いを遂げた時にストーリーは終わります。

 

小説を書いていると「葛藤が足りない」と思う時があるかもしれません。人物がみんなと仲良く、何もせず、淡々としているだけ。あるいは、事件がすんなり解決するのでつまらない。盛り上がらない。

 

そんな時は、葛藤を大小さまざまなレベルに分けて考えてみてほしいのです。あなたの小説のなかで、一番大きな規模の葛藤は何でしょう?エイリアンが地球を恐怖に陥れるような宇宙規模のものや、戦争のように人間の世界で起きる大きなもの。それが作品で最も大きな枠になります。しかし、それは一番大きな枠でしかありません。「戦争の葛藤を描く」と言うだけなら、戦争という出来事が焦点になりますから、アイデアをそこから先へ深めていけません。出来事を書く本でいいならかまいませんが、ストーリーテラーとして小説を書くなら、小さなレベルの葛藤も必要です。人間同士の小さな対立描写に、物語の真の力が宿ることが多いからです。

 

「人間同士の対立」と聞けば、大抵の人は主人公と敵を思い浮かべます。そこで発想を止めていませんか?他の人物たちとも小さく対立させてはどうですか?主人公と家族。主人公と仲間。敵対者と仲間。どのシーンにも、ちょっとした意見の相違から激しい衝突まで、さまざまなレベルの葛藤をちりばめて頂きたいと思います。

 

人物がかわいそう、と思わずに。葛藤して悩まない人物など、登場させる意味がありません。あらゆる場面に「思い通りにいかない状況」を盛り込んで下さいね。

葛藤はプロットに合っているか?

読者に対して、筋を通さねばなりません。前にあった出来事や、人間としてのリアリティのある思考と辻褄が合った行動を人物にさせるべきです。ボクサーが理由もなく警官を殴ったり、競技場の係員を蹴ったりするとおかしいです。若いごろつきたちが、捕虜になった兵士に腐った卵を投げつけるとしても、なぜ、今、投げるのか。しかも、その兵士が誰だか知らないのに。そういったことに筋を通さないと、読者は納得しません。

 

「孤児たちへの寄付金が悪者に奪われる」は「寄付金を届ける」というゴールを妨害していますから、よい葛藤と言えます。しかし、その後、悪者が二度と登場しなければ、そこだけが浮いてしまいます。悪者を都合よく登場させているように見えるでしょう。

 

シーンの葛藤には、前の出来事との因果関係が必要です。また、主人公のゴールをストレートに妨害するものを選ぶこと。

 

プロットの中で意味が通り、流れに合う葛藤をさせましょう。プロットを考える時は、常に登場人物に目を向けること。性格だけでなく、なぜそんなことをするのか、目的は何か、出来事にどう反応するかも想像しましょう。ストーリーの推進力は、主人公のゴールに真っ向から何かが衝突する時に生まれます。

 

葛藤というコンセプトは単純に見えます。「要は二人がケンカすればいいんでしょ。それのどこが複雑なのかしら」と思いますよね。しかし、書き手はもっと深いところで対立を把握せねばなりません。対立を生む真の原因は何か?二者がぶつかり合うことで、どんな変化が引き起こされるか?これらの問いへの答えがわかれば、説得力のあるプロットが自然にできてくるはずです。

登場人物の中から葛藤を生み出そう

葛藤は人物の性格や内面のゴール、対外的なゴールとも合わせることが必要です。

 

人物に自己主張させることも大事です。たとえ仲良しの相手とも、ゴールをめぐる主張をし、衝突させましょう。実社会では「温和な人=いい人」とみなされますが、フィクションを書く時は頭を切り替えて下さい。温和なキャラクターは小説から生き血を奪う吸血鬼のような存在。物語から力が奪われ、生命力がなくなってしまいます。好感が持てる登場人物は魅力的ですが、いい人過ぎると困ります。どんな問題があるでしょうか?

 

もう、おわかりでしょう。ご機嫌な朝を迎えて和気あいあいとする人たちを描いても、シーンに必要な葛藤はちっとも生まれません。

 

人物に多くの欠点を与えましょう。そして、たくさん衝突させること。ぶつかり合う動機を与え、敵対人物も作り、葛藤不足にならないように注意して下さい。

会話の途中で葛藤させるには

・ポイントをずらさない。

プロットに影響を及ぼす内容にすること。行き当たりばったりの口ゲンカでは何の役にも立たない。プロットの進展もなく、人物の面白い側面も見えない会話は読者にとって意味がない。

 

・会話も序盤、中盤、終盤の軌跡を持たせる。

物語全体の構成と同様、徐々にヒートアップさせ、頂点から解決に向かわせる。最終結論を出すのを作品の後半に持ち越したい時も、一つひとつの議論には当座の着地点が必要。

 

・人物の変化の軌跡を維持する。

議論をする理由と目的は何か?わけもなく口論する人はめったにいない。理由、目的、意図があるはず。人物たちは何を求めているのか?相手から何を得ようとしているか?

 

・テンションに強弱をつける。

必ずしもケンカごしにさせる必要はない。むしろ、声を荒げてばかりではよくない。静かな雑談をしながら、水面下で葛藤させることも可能。会話のテンションを様々にして面白さを保つ。

 

・言葉の真の意味を利用する。

会話を通して、隠れた事実を表に出す。「猫をどうして外に出してやらなかったの」と相手を責めるセリフの裏に、「私たちの関係がうまくいかなくなったのはあなたのせいよ」といった意味を含ませることも可能。

 

・アクションで効果的に表現する。

一ページ丸々続く会話を、一つのアクションに置き換えることも可能。夫婦ゲンカの会話を書く代わりに「妻が夫を、買ったばかりのロブスターでひっぱたく」といった行動で表現もできる。

会話の中で葛藤させる時の注意点

・議論をむやみに長引かせない。

天気の話から徐々に口論に発展し、両者が激怒するまで引っぱると回りくどい。

 

・言葉を言いっぱなしにさせない。

語り手のリアクションを描写すること。

 

・あっさり解決すると不自然。

「ろくでなし!」から突然「愛してる」にかわることは稀。二者が対立するやりとりには自然な上がり下がりがある。あっさり収束させて読者をがっかりさせないこと。

 

・性格に合わない争い方をさせない。

嘘や不正を憎む人物は正々堂々と戦う。いじめっ子なら、巧妙に隠れて攻撃するかもしれない。性格と価値観に合った葛藤をさせること。そうでない場合は、それなりの理由が必要。

シーンの葛藤の選択肢

シーン内の葛藤にも無限の可能性があり、種類は様々。おおまかには次のように分類できます。

 

1 真っ向からの対立(他の人物や天候などが主人公の邪魔をする)

2 内面で起きる摩擦(ゴールに対する考え方を変えるようなことに気づく)

3 不利な状況(ケーキを焼きたいのに小麦粉がない、ダンスのパートナーがいない、など)

4 能動的に表現される対立(議論、殴り合いなど)

5 受動的に表現される対立(無視される、暗い場所に閉じ込められる、相手から避けられる、など)

 

葛藤には次のようなものがあります(これらは一例です)

 

1 ケンカ、殴り合い。

2 言い争い、口ゲンカ。

3 物理的な障害

4 精神的な障害

5 物質の欠如

6 知的財産の欠如

7 行為をしないことによる攻撃

8 間接的な妨害

シーンの葛藤を考える時に

どんな葛藤をさせるかが決まったら、次の質問に答えて下さい。

 

1 人物は妨害されていることを意識しているか?

2 その葛藤は、人物のゴールとぶつかるようにできているか?

3 敵対者が対抗する理由はストーリーと辻褄が合うか?

4 その葛藤は、論理的な結果につながっているか?

5 その葛藤は、主人公のゴール達成を直接的に妨害したり、脅かしたりしているか?