ストラクチャーから書く小説再入門 第15章
シーンの「ゴール」の選択肢
ストーリーもシーンも、まずはゴール設定で始まります。人物には何かほしいものがあるはずです。それは手に入れにくいものだったり、到達が困難なゴールだったりします。人物のゴールに従って、プロットを大小の括りに分割することができます。人物の人間性や作品のテーマも、ゴールに表れます。
やはり、これもドミノに例えることができます。一つのゴールに向かって進むたび、物語は一歩前進。一つが次につながり、またその次につながります。一つが列から外れていたら連鎖反応はストップ。ストーリーは行き詰まり、致命的な打撃を受けます。
プロットのゴールvsシーンのゴール
プロット全体のゴールとは、人物がプロットの最初から最後までを通して追い続ける目標です。「大統領になる」や「誘拐された娘を救い出す」、「隣の家の女の子と結婚する」、「父の死を乗り越えて再出発する」などです。こうした長期にわたる目標を視野に入れ、短期で達成できる目標を想像してみて下さい。遠い道のりも、小さな一歩を続けた先にあります。
ストーリーの序盤で、人物は願望や目標をはっきり意識できていないかもしれません。だからと言ってぼんやりさせるわけにはいきません。最初のシーンから、小さなゴールでもいいので何か設定することが必要です。
隣の女の子が犬を飼っているとします。とりあえず、主人公の男の子は「あの犬がうちの庭の花を噛みちぎるのを、やめさせてほしいな」と意識して、「犬を鎖につないでほしい、と頼まなきゃ」。頼みに行くと、隣の子がかわいくて一目ぼれ。「あの子をデートに誘いたい」、「でも、悪い印象を与えちゃったから、どうにかしなきゃ」。だから「花束を贈ろう」と思い立つ……というふうに続けることが可能です。これが「シーンのゴール」の例です。連鎖的に次々とゴールが生まれ、物語全体のゴールへと進んでいくことがご想像頂けるでしょうか。
「シーンのゴール」だからと言って、そのシーンの中で無理やり結果を出す必要はありません。男の子がシーン3で「よし、隣の子をデートに誘うぞ」とゴールを設定するもののうまくいかず、ようやくシーン11で成功、というプロットもあるでしょう。
このような場合、さらに小さなゴールを設定し、連鎖させていって大きなゴールに合流させます。「デートに誘う」という大きなゴールのために「偶然を装い、どこかでばったり会う」、それから「電話番号をもらう」。そうした小さいゴールを重ねていって、「花束を贈る」、それから「犬に怒ってごめんねと謝る」というふうに続けます。
共通のゴール
「ヒーローと悪者」と聞けば、正反対のイメージがあるでしょう。しかし、名作を見てみると、実は共通点が多いと言ったら意外でしょうか? 両社が似ているほど、ストーリーが訴える力は強くなります。人物描写がリアルになり、テーマも深まります。
主人公と敵対者とを強く対比できるのは、両者が強く共通している時だけである。共通点があるから、同じ問題に対して少し異なるアプローチをする。似ているからこそ、重要な相違点が浮き彫りになる。
共通点で最も重要なのは「メインのゴール」でしょう。同じ目的で動くから両者は結びつき、ぶつかり合うのです。何が同じで何が違うか、お互いが相手を映す鏡のような存在になります。
また、「性格や価値観」の一致も重要です。
二人が性格的に似た者どうしだと、面白い可能性が開けます。悪役にはヒーローの性格の悪い面を表現させることができます。また、「一歩間違えばヒーローもこうなってしまう」というふうに、敵対者を反面教師的に使った表現もできます。
二人の価値観も、同じにすることが可能です。双方に強い理由や主張があれば、それをどう行動で表すかで差を見せることができます。兄弟が敵と味方に分かれる戦争物語などは、同じ価値観、異なる行動がベースのものが多いでしょう。
原稿を書き始めたものの、人物が何をしたいかわからなくなったり、敵対者が全く無力だと気づいたりしたら、二人の共通点を探すだけで解決します。人物やプロット、テーマやシーンを強化するチャンスが随所に見えてくるでしょう。
シーンのゴールの選択肢
シーンのゴールは色々。「手紙の束を燃やす」、「昼寝をする」、「クローゼットに隠れる」、「ボートを沈める」など。内容により、おおまかに分類できます。
登場人物が求めるものは、次のいずれかに当てはまるでしょう。
1 具体的なもの(品物、人など)
2 無形のもの(尊敬、情報など)
3 身体的な状態からの脱出(身柄の拘束、苦痛など)
4 精神的な状態からの脱出(心配、疑惑、恐怖など)
5 感情的な状態からの脱出(悲しみ、憂鬱など)
こうしたゴールを達成するために、よく取られる手段は次のようなものです。
1 情報を求める。
2 情報を隠す。
3 身を隠す。
4 誰かを隠す。
5 誰かと対決する。または、誰かを攻撃する。
6 物を修理したり、破壊したりする。
シーンのゴールを考える時に
シーンのゴールがきまったら、次の質問に答えてみましょう。
1 そのゴールはプロットの中で意味をなすか?
2 そのゴールはプロットに溶け込んでいるか?
3 そのゴールの達成は、新たなゴール・葛藤・災難につながるか?
4 そのゴールは内面的なものか? 身体的な行為を伴うか?
5 そのゴールの成否は語り手に直接影響を及ぼすか?