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ヨシヒロの読書ブログ

ヨシヒロの気が向いたときに読書記録をつけていくブログ(小説・文学・哲学・心理学・経営・経済・ビジネス)

ストラクチャーから書く小説再入門 第14章

シーン

「シーン」を二つの部分に分ける

これから「シーン」を二つに分けて説明します。一つはシーン(主にアクション=出来事や行動を描く部分)、もう一つはシークエル(出来事に対するリアクション=人物の反応を描く部分)。

シーン部分

物語は「アクション」と「リアクション」をセットにして伝えます。前者を描くところがシーン部分。葛藤、対立を見せるセクションです。シーン部分では人物が出来事に遭遇し、行動します。ストーリーの中で際立つ部分です。

シークエル部分

シークエル部分では「リアクション」を描きます。シーン部分より地味ですが、なくてはならない存在です。葛藤が前面に出ない代わりにテンションを感じさせます。

 

シーン部分で物事がどんどん展開した後、シークエル部分で登場人物も読者もいったん落ち着き、出来事を振り返ります。

 

また、先のことを考えて決断するまでの思考プロセスが起こります。「決断後、次の行動に出る」という流れになると、ストーリーは新たなシーン部分へと移ります。

シーン部分を作る三つのブロック

ストーリーに三幕構成があるように、「シーン」にも基本的な構成があります。シーン部分もシークエル部分も、やはり三つのブロックに分かれます。

 

1 序盤=掴み

2 中盤=発展

3 終盤=クライマックス

 

では、具体的には何を書けばいいのでしょう?実は、シーンとシークエルでは三つのブロックで描く内容が異なります。まず、シーン部分を見てみましょう。

第一ブロック:ゴール

まず、ゴールは何かを伝えます。物語全体のゴールは物語全体のスパンで目指すもの。シーン部分では、人物がシーンの中で目指すゴールを設定します。目指すものがなければ物語は進みません。

 

ゴールがない=発進しない。

 

シーンのゴールは物語全体のゴールの縮図か、それに向かう小さな一歩に当たります。例えば、物語の最初から最後までを通して「捕虜収容所からの脱走」を目指す話なら、シーンのゴールは「スコップを手に入れる」「衛兵を買収し、見逃してもらう」「仲間に協力を求める」など。人物の目標が定まれば、一つひとつのシーンを書く目的もはっきりします。

 

ゴールがない=意味がない。

 

できるだけ早く人物の目的を書きましょう。何がしたいかわからないと、読者も続きが読みづらいのです。人物は何をしようとしているのか。なぜ、そうしようとするのか。失敗すれば、どうなるか?

第二ブロック:葛藤

ゴールに向かう人物は障害にぶつかり、葛藤します。「葛藤がなければストーリーにならない」と言われますが、正確に言えば、「葛藤がなければシーンにならない」。何かとぶつからなければ人物はあっけなくゴールにたどり着いてしまい、話になりません。

 

葛藤はシーン部分の真ん中で話を発展させる役目をします。読んで面白いくだりの大部分は、おそらく葛藤で占められるでしょう。

 

捕虜収容所の例だと、物語全体の葛藤は「主人公は脱走したいが、司令官は脱走させまいとする」。シーン部分の葛藤は「スコップを盗もうとするが、衛兵に見つかる」、「衛兵をうまく買収しようとするが、計画を見破られて脅かされる」、「計画に不安を感じた仲間に反対される」などになるでしょう。

 

ここでは、主人公のゴールが妨害されることが必要です。「他の捕虜に突然、因縁をつけられる」といった案もありますが、主人公のゴール達成が危うくならなければ、プロットから外れた小競り合いで終わってしまうでしょう。

 

葛藤、対立の例は「ナイフを持ってケンカする」といった身体的なものから「クレジットカードを失くして立ち往生する」といった状況から生まれるものまで様々です。争いやケンカ、口論だけとは限りません。ゴールを目指して行動する人物が邪魔されたり、思い通りにいかなくなるところを描いてください。

第三ブロック:災難

葛藤や対立は、どこかで決着させねばなりません。それも、たぶん主人公に不利な方向で。結末を「災難」に終わらせ、次の「シーン」につなげます。丸く収めてしまうと「次はどうする?」という流れが起きませんから、物語が終わってしまいます。

 

ただし、災難続きにするのはほぼ不可能。たまには主人公に調子よく進んでもらわないと、プロットが先に進まない時もあります。

 

それでも私が「災難」という言葉にこだわるのは、主人公にリスクを負わせ、不安定な状態に置き続けたいからです。「災難」の内容は様々です。大きなものだと銃撃戦や車のクラッシュ。それより小さく静かなものだと、騙される、運転中にタイヤがパンクする、バレンタイン・デーのチョコが溶けてしまう、など。

 

「まずい結果」ならなんでもいいのではなく、葛藤との因果関係が大事です。「彼女とケンカして、ふられる」ならOK。「彼女とケンカして、交通違反で逮捕される」だと因果関係があるかは疑問です。ケンカか逮捕、どちらかを書き換える必要があるでしょう。

 

捕虜収容所の例なら、「スコップを探すが、見つからない」「買収工作が失敗し、衛兵に脅される」「仲間を誘うが、『自分勝手なことをするな』と責められる」など。主人公に「どうしよう、これじゃ自分の思い通りにいかなくなる」と言わせるような結果を選ぶことがポイントです。

シーン部分の目的を考える

効果的で意味のあるシーンを書くには、「シーンの大筋」と「そのシーンを書く目的」に注目します。私たちがシーンを考える時の思考プロセスは次のどちらかです。

 

1 シーンがプロットにどう影響するかわからないまま、とにかく出来事を想像する。

2 プロットを進めるのに必要な出来事がわかっており、それに合わせてシーンを考える。

 

2のようにプロットに合わせてシーンを組み立てる方がやりやすいでしょう。1の方法でもいきいきとしたシーンが書けるかもしれませんが、プロットから外れた部分は後で修正しなければなりません。どちらにしても、アドバイスは次のひとことに尽きるでしょう。

 

シーンを書く前に目的を決めてから、どんな要素や物事を出すかを決めなさい。

シーンを停滞させずに進める方法

小説の中には、さして盛り上がらないくだりもあるでしょう。私たちの生活だって、お祭り騒ぎや大事件ばかりが続くわけではありません。家事や雑用をする時間もあって当然です。そんなメリハリを小説の中でうまく作るには、どうすればいいのでしょう?次の「見せ場」が来るまで、読者を退屈させたくありませんよね。

 

地味なシーンを書く時は、情景の裏に何かありそうだとにおわせる。嵐の前の静けさですよ、と伝えればテンションが高まります。

 

もう一つのコツは、動的な描写をすること。人物が立っているだけではプロットは進みません。立って考えているだけなら、なおさらです。読者の目に浮かぶのは、つまらない風景。行動させない限り、心の声やセリフを延々と書くことにもなるでしょう。

 

人物が道を歩くだけでも、読者は人物と一緒になって動く感覚を得ます。人物の動きが推進力や切迫感を生むのです。

 

「ここは流れが悪いなあ」と感じるところがあったら、小休止しましょう。目を閉じて、映像を見るように光景を想像します。きっと大部分は映画のように思い浮かべられるはず。その中で人物がじっと静止した状態なら、流れも停滞するはずです。

 

原稿を読み返して「なんだかつまらない」「無駄が多い」と感じたら、人物の動きをチェックして下さい。理由がない限り、じっと座っていたり、立ったままでいたりする設定は避けましょう。キャラクターを動かせば、プロットも動きます。

ストラクチャーから書く小説再入門 第10章

クライマックス

あなたの小説がどんなジャンルであれ、読者から得たいのは感動ではないでしょうか。嬉しくなったり、悲しくなったり、考えをめぐらせたりしてもらいたい。そして、「うん、やっぱり納得の結末だな」と言ってもらいたい。また同時に「うわぁ、結末がまさかこうなるとは!」とも言わせたい。優れたエンディングとはそういうものです。

 

完璧なエンディングには、必然性と意外性の両方が必要です。理屈として納得できて、予想外。なんだか矛盾しますよね。そんなエンディングが書けるものなのでしょうか?

  

読者は書き手にフェアプレーを求めます。筋が通らないものは受け入れてくれません。「意外な結末」が書きたいなら、さらにハードルは高くなります。ですから、「物語に出てくるものは中盤の終わりまでに全部登場させておきましょう」と言うのです。読者が「ここまで話が広がってるけど、どうまとまるのかな?」と思っていたら、突然、見たことがないものが登場して終わり、と言う小説ほどひどいものはありません。

 

必然かつ意外なエンディングを書くには、「伏線」と「複雑化」の二つが必要です。つまり、パズルのピースをあらかじめ見せておくことと、多くのピースを与えて複雑にみせかけること。小説の終盤は、パズルで言うなら全体の絵がほぼ見えている状態です。残り、あと十個ほどをはめ込んだら完成といったところにいます。

 

結末につながる伏線を張れば、エンディングに必然性が生まれます。かすかに伏線を見せた後、引き続き論理的にプロットを進め、紆余曲折を見せて複雑化します。読者の注目を色々な方面に向かわせれば、「最後はこうなるかな、それとも、違う方のこっちかな」と考えるようになり、エンディングを完璧に予測することは不可能になります。微妙な匙加減ですが、うまくできれば作品を成功に導いてくれるでしょう。

クライマックスとは何か?

ストーリーが中盤の終わりで転機を迎え、終盤に入るとアクションはどんどん激しくなります。ですから、第三幕全体がクライマックスと言えなくもありません。しかし、厳密には、第三幕の一部分。主人公と敵対者が対決する瞬間が真の「クライマックス」です。

 

クライマックスでは戦うアクションを描いたり、状況の変化を描いたりしますが、ほぼ全ての物語にあるのは主人公の「気づき」です。クライマックス近くで何かを悟る。そして、それまでの考え方を捨て去り、敵にぶつかっていく。自分の心の葛藤にも、敵との対立にも、ここで決着をつけようとします。

 

クライマックスの位置は第三幕の終わり頃。全体で言うと、最後の一〇%ぐらいです。大抵の場合、クライマックスの終りに来る「クライマックスの瞬間」はラストから二番目のシーン。それが終わったら、あとはラストシーンのみです。語るべきことはクライマックスで出し尽くしてしまいます。ラストシーンは情緒的な余韻を見せるだけの存在です。

ストラクチャーから書く小説再入門 第9章

第3幕

第三幕も劇的な事件で始まります。前との違いは、けっしてパワーダウンしないこと。人物も、そして読者も一緒に、激しい流れに突入です。全ての糸が絡み合い、結びへと向かいます。

 

第三幕の課題は山ほどあります。まず、すべての登場人物を集結させること。次に、サブプロットにオチをつけること。伏線の展開を明かすこと。主人公と敵対者の両方に最終計画を実行させること。主人公に内面の弱さを直視させ、最終バトルで成長、変化を遂げさせること。これらの課題を達成した上で、さらに、全ての物事をうまくまとめてエンディングに収めること。

プロットポイント2

第三幕も、大きく変化を促すプロットポイントで始まります。主人公をさらに強く前進させ、クライマックスへと向かわせます。以後のドミノは直線コース。まっしぐらに主人公と敵対者の衝突へと進みます。第三幕のシーンは全て重要です。転機となるプロットポイントは目立ちにくいかもしれませんが、推進力は他と同じぐらい強くなくてはなりません。

 

プロットポイント2で人物はどん底に落ちます。望みが叶う一歩寸前でだめになり、これまで以上に落ち込みます。そこから再び戦う力を呼び起こし、クライマックスへ。人物はプロットポイント2で燃え尽き、灰になった状態から再起せねばなりません。

人物の変化をまっとうさせる

ストーリーの最後の四分の一では、主人公に逃げ場はありません。あとはただ敵対者に立ち向かうのみ。それまでは状況にただ反応し、意を決して行動にも出てみたけれど、第三幕ではとうとう自分の弱さや過去の過ちを直視せざるを得なくなります。この先の勝負に勝つには、真実を認めて打ちのめされ、這い上がって新たな知恵や力を得なくてはなりません。

 

人物はクライマックスで大勝負に出ます。これまでずっと追ってきたゴールに到達できるか?潜在的なニーズを満たせるか? 危機のレベルは極限状態。第三幕では、そこまで盛り上げていきます。

 

ストーリーで大切なのは人物の変化だと、繰り返し述べてきました。書き手の仕事は人物に変化をもたらす旅をさせること。多くの場合、それは成長の旅でしょう。

 

序盤でゴールに手が届かなかったのは、本人に何らかの思い込みがあったせいではないでしょうか。そこ思い込みや価値観を塗り替えるために、物語で旅をさせるのです。ただの旅行ではありません。その人物が新しい自分になるために、必ず通らなくてはならない局面に連れて行くのです。

 

それが、物語で言うと七五%の地点から始まる第三幕での仕事です。書き手は人物に手加減せず、絶望の淵まで叩き落さなくてはなりません。誤ったものの見方や欠点を改めて生まれ変わるには、少々のことでは足りません。厳しい局面に遭遇させましょう。

 

生か死かの究極の選択が必要です。努力の甲斐なく、愛も希望も壊れていく。なぜかというと、まだ人物が心に蓋をしているからです。恐れや感情や疑念など、これまで見ないようにしてきたものがあったでしょう。最終決戦でそれを乗り越えなければ、未来には進めない。

 

人物はどこまで強くなれるでしょうか? 恐れを乗り越え、捨て身で敵に向かっていけば、物語はいよいよクライマックスです。私はこんなふうに生きたいんだ、こんな人間になりたいんだ、人物の新たな理想を行動で表現したものが、クライマックスでのアクションです。

ストラクチャーから書く小説再入門 第8章

第2幕の後半

ミッドポイントを過ぎたら物語はヒートアップします。主人公は積極的に行動し始め、プロットの運びは活発になります。

 

この裏にあるのは主人公が得た「気づき」であることが多いでしょう。その気づきが何なのか、まだ本人は言葉で言い表せないかもしれません。また、内面の弱さや欠点、問題も残っているでしょう。

 

しかし、「これではいけない、何かせねば」と思い始めます。ミッドポイントの転機以後、徐々に生まれ変わろうとします。

 

主人公に状況を支配する力はないでしょうが、苦しい状況下でも前向きに行動します。やはりここでもドミノ式にアクションを連鎖させます。目指すは全体の七十五%地点にある「プロットポイント2」。その後、第三幕の最終バトルになだれ込みます。第二幕の後半は伏線を張る最後のチャンス。第三幕で使うもの、出てくるものは全て登場せておきます。

 

ミッドポイントの転機で「これではいけない!」「もう黙っていられない!」と感じた人物は、パワフルな行動に出ます。例えば、敵対者に反撃する、無知な状態から目覚める、目標達成に意欲を燃やす、戦いを決意する。

 

第二幕前半の行動は、前半でのリアクションの映し鏡となるでしょう。よく考えれば、アクションもリアクションも同じようなもの。ただ、前半の人物は、身にふりかかる出来事に反応するばかりだったかもしれません。ミッドポイント以降の第二幕後半では、人物に内面の強さが生まれます。自力で運命を切り開くのは困難でも、困難に対して何かしようと試みます。

 

こうして人物が成長しようとすることで、物語は動きます。動かなければ、古タイヤの内側にたまった水と同じで、ずっとそのままです。変化のない小説は退屈。読み応えのあるアクションもテーマもなく、綴った分は同じことの繰り返しになるでしょう。

 

人物描写が単調になる原因はたくさんありますが、やはり一番最初に疑うべきは「変化、あるいは成長をさせていないこと」です。原稿の最初と最後を取り出して、人物の様子を比べてみて下さい。「代わり映えしない」「前とおんなじ人だ」と思ったら、書き手は自分に厳しい質問を投げかけなくてはなりません。その一つは「なぜ?」です。

 

「ええ、僕の小説では人物の成長を描いていますよ」と言う人も、うっかり落とし穴に落ちている場合があります。確かに小説の最初と最後で人物は変化している。ただその変化が徐々にではなく、終盤で唐突に起きているのです。

 

アクションが本格化する中盤を見て下さい。段々成長していく人物を、やはりドミノ式に描写したいところですが、ずっと同じ心理状態を続けていませんか?

 

小説の後半を見て下さい。前半に出てきたシチュエーションと類似する状況で、前半とそっくりの反応を人物にさせていませんか?もし反応が同じパターンなら、一本調子だというサインです。

 

第二幕後半は全体の二十五%ですから、かなりの分量です。この部分を使って人物を鍛え抜き、終盤のクライマックスへと運んでくださいね。失敗から学び、また問題に直面させ、敵に立ち向かう準備をさせましょう。

 

手抜きができない部分ではありますが、ミッドポイント後に急成長させないよう注意して下さい。でないと、終盤での変化がかすんでしまいます。内面も含め、人物が最大の危機に直面するのは第三幕。第二幕後半は準備期間と捉え、後に人物が直視せねばならない欠点を、伏線として描いておきましょう。

ピンチポイント2

第二幕後半が半分過ぎると第二のピンチポイントが訪れます。ピンチポイント1と同様、敵対者の力が直接的に、あるいは何らかの方法で表れ、主人公に脅威を与えます。

 

ここでは最終決算の前に、敵がいかに強いかを見せて危機感を盛り上げます。例としては、激しい議論、権威を見せて相手を押さえつける、悪者による略奪行為の激化、敵対者による新たな追跡、敵が主人公に接近するなどがあります。

ストラクチャーから書く小説再入門 第7章

第7章 第2幕の前半 

作品中、第二幕は最も大きな部分を占めるもの。全体のおよそ50%に当たります。これを三つの部位で考えていきましょう。(1)前半、(2)ミッドポイント、(3)後半です。

第2幕前半

物語全体の中で見てみると、第二幕前半はプロットポイント1から全体の50%地点の間に相当します。プロットポイント1で大きな転機に遭遇した人物たちは強く反応します。その反応が次の反応を引き起こし、第二幕前半が進んでいきます。

 

主人公に筋の通った反応をさせなければ、第二幕以降はうまく進みません。だから、第一幕での人物紹介が大切なのです。

 

人物の人柄をどう紹介するかは、プロットポイント1に対する反応を考慮して決めましょう。後の転機にふさわしいもの、予兆を感じさせるもの、対比を見せるものを選びたいです。

 

プロットポイント1での転機は状況を激変させます。もはや人物は後戻りできず、リアクションに迫られます。人物のリアクションに対して敵対者も反応を返し、それを受けてまた人物も反応します。物語のど真ん中、ミッドポイントに至るまで「やられたら、やり返す」を様々なバリエーションで繰り返していきます。

ピンチポイント1

第二幕前半の終わり頃、主人公は「ピンチポイント1」に遭遇します。敵対者が腕を振りかざし、強大な力を見せつけてくるところです。ミッドポイントがくる前に今一度、読者に敵の力を思い出させ、主人公に作戦変更を迫る流れを作ります。また、危機感を高め、クライマックスの伏線を張るのもピンチポイントの役目。

 

ピンチポイント1では敵が主人公の弱点を突いたり、主人公が負けそうになって嘲笑や叱責を受けたりします。

 

この部分を敵対者の視点で描く場合、主人公を倒す計画を明かすだけになるかもしれません。

まとめ

1 プロットポイント1では転機と共に、人物の強い反応を描く。

 

2 人物の暮らしや将来の計画がひっくり返るため、人物はそれまでと違った手段で対応しなくてはならない。特に、メインの敵対勢力に対して。

 

3 第二幕前半はストーリー全体の四分の一を占める。深いレベルで様々なリアクションをさせよう。

 

4 人物たちの連鎖反応でプロットを前進させる。シーンやサブプロット、テーマを絡め、深めるようなリアクションを描くこと。

 

5 第二幕前半では、最終バトルで必要な技術や品物などを得ることがよくある。

 

6 第二幕前半の終わりでは、敵対者からの圧力がかかる。敵対者の力をはっきりと見せておく。

 

第二幕の前半は人物描写を深め、先の展開への伏線を張るところ、テンポが速いアクション物も、ここでは落ち着いたペースで描写を進め、クライマックスへの下地にします。

ミッドポイント

第二幕のど真ん中で、すごいことを起こしましょう。

 

ミッドポイントの役割は、中盤をぐっと引き締めること。それまで描いてきた人物のリアクションを締めくくり、人物に行動をスタートさせて第三幕に導きます。プロットに大きな影響を与えますから、二度目の第転機といってもいいでしょう。ストーリーの流れが変わり、人物の反応もストーリーを変えていきます。しかし、もう人物は受け身ではありません。自らの意思で行動し、敵対勢力に対抗します。

 

ドミノ倒しに例えると、、ミッドポイントは曲がり角。第二幕前半のリアクションの連鎖がくるっと向きを変える、大きな局面です。論理的な流れに沿いつつ、まったく新しい方向へ物語を展開せねばなりません。

 

例えば、主人公が捕えられる。重要人物が死ぬ。もう少し控えめな出来事でもかまいません。

 

ミッドポイントで、人物は反応するだけの状況から脱却します。この先サバイバルするには、守りから攻めに転じることが必要です。と言っても、敵の城壁めがけて突進するだけが「攻め」ではありません。もう「それ」はご免だ、と何かをし始めるのも「攻め」の姿勢です。

ストラクチャーから書く小説再入門 第6章

第6章 プロットポイント1

ストーリーは、いくつものシーンをつなげて作ります。初めから予測がつくもの、繰り返し強調するものがある一方、その後の流れを激変させるシーンがあります。そうした転機に当たるシーンを「プロットポイント」と呼びます。

 

大きな出来事や事件が起きて、物語の流れが変わるところです。小さなものからショッキングなものまで、転機はいくつあってもかまいません。騒動を巻き起こし、新たな対立を引き起こし、登場人物を動かすのが転機であり、プロットポイントです。

 

ストーリー全体の25%ぐらいまで進んだところで訪れる転機を「プロットポイント1」と呼びますが、「1」というのは誤解を招くかもしれません。それまでに、すでにいくつかの転機があるかもしれないからです。

 

25%地点のプロットポイントが他と大きく違うのは、その時から状況が一変すること。この先、人物は後戻りができません。状況説明が終わると人物は行動に駆り立てられるのです。

 

プロットポイント1で事件が起きると、主人公は強く反応します。ここで第1幕が終わり、主人公の反応を皮切りに第2幕が始まります。プロットポイント1は第1幕の山場と言ってもいいでしょう。

 

しかし、物語の転機はいつ訪れようと自由ではないのでしょうか? なぜ25%あたりがよくて、10%や40%地点ではだめなのか。理由は単純。全体の25%あたりまで進んだら、読者は自然に「そろそろ何か起きてほしいな」と感じるものだからです。

 

映画や小説で「ストーリーが進展せず、じれったい」と感じたものはありませんか? おそらくの原因はプロットポイント1が存在しない、あるいはタイミングが遅いということ。そうした作品は、最後まで見たり読んだりする気が失せたはずです。

 

プロットポイント1が遅いと、第1幕の人物紹介や状況説明が延々と続くことになります。逆にタイミングが早過ぎると第2幕が冗長になります。

「インサイティング・イベント」と「キー・イベント」

オープニングから25%地点までの間に必ず置きたいものが2つあります。それが「インサイティング・イベント」と「キー・イベント」です。25%地点までならどこに入れてもOK。

 

インサイティング・イベントとキー・イベントは、大抵、はっきり区別されます。「キー・イベント」とは人物を事件に巻き込む出来事。探偵小説で考えるとわかりやすいです。まず、どこかで事件(インサイティング・イベント)が発生する。あるきっかけで探偵は依頼を受けて(キー・イベント)調査に乗り出す。つまり、インサイティング・イベントによって動き始めた物語に主人公をくっつける糊の役目をするのがキー・イベントです。

 

通説では、インサイティング・イベントは次のどちらかで起こすべしと言われます。一つは、第1章の「掴み」の部分。もう一つは、25%地点のプロットポイント1。ちょっと融通がきかない感じですね。

 

「掴み」とプロットポイント1さえ定位置にあるなら、インサイティング・イベントはどこでもかまいません。冒頭にいきなりバンと出してもいいし、タイミングを少し待ってもいい。作品の中で最もいい位置を見つけてください。

 

その後、主人公を巻き込むためのキー・イベントを起こします。第1幕で書くべき情報を含めた流れで言うと、「冒頭で事件(インサイティング・イベント)発生→舞台設定の説明→人物紹介→主人公が事件に巻き込まれる(キー・イベント)」というような順序でもいいでしょう。主人公をインサイティング・イベントにがっちり絡ませてから、最初の大きな転機(プロットポイント1)に遭遇させましょう。

 

ストラクチャーから書く小説再入門 第5章

第5章 第1幕 パート2:危機と舞台設定の紹介

人物紹介と共に、第一幕では舞台設定と「危機に晒されている大切なもの」を伝えます。それは、読者に物語を味わう心の準備をしてもらうため。

 

舞台劇やミュージカルのパンフレットに少し似ています。メインのキャストを紹介し、この先、何が起きそうかを感じ取ってもらいます。

「危機に晒されている大切なもの」の紹介

人物の登場と同時に、その人物の「大切なもの」も紹介します。その人物が必死で守りたいものです。

 

後にこれをめぐって戦うことになりますから、「大切なもの」を脅かす存在も紹介します。つまり、「敵」も第一幕で紹介するということ。あるいは、少なくとも存在をにおわせておきます。

 

読者のためを思うなら、人物に対して非情になりましょう。まず手始めに、人物に起り得る最悪の事態を考えます。思いついたら、それよりももっとひどい事態を考えます。 

 

会社をクビになる。それよりももっとひどいことは?

 

クビになり、娘が誘拐される。まだ最悪ではなさそうです。

 

娘が大統領と一緒に誘拐される。敵は恐ろしいエイリアンで、天候は大吹雪。世界を破滅に導く核戦争が勃発寸前。

 

ここまでくれば危機感がありますね。さらに悪条件が追加できるか考えてみて下さい。

 

また、人物が物語でたどる変化や成長にも合わせることが大事です。

 

核戦争を生き抜いてこそ成長する人物がいる一方、こまやかで身近なレベルの危機を体験して変わっていく人物もいるはずです。

 

危機のセットアップは第一幕から計画的に行います。「娘の誘拐」が危機なら、主人公にとって娘がかけがえのない存在であることを紹介します。このセットアップなくして危機感を盛り上げることは不可能です。

 

物語が進むにつれて事態は悪化します。やがて大勢の敵に囲まれた人物たちは、それまで自分を守ってくれていたものが通用しないことに気づきます。時間はどんどん足りなくなってくる。全員に大打撃を与えるような新事実の発覚が迫る。

 

そういった仕掛けが意味をなすのも、人物たちが守り抜かねばならないものを先に伝えておいてこそ。派手なアクション描写は後回しでかまいません。

 

人物が何に対して「どうしても、これを守らねば!」「手に入れなければ全て終わりだ!」と思っているかを描けば、読者も息をこらして見守ってくれます。

 

家族や仕事、名誉などに対する人物の思い入れを描写すればするほど、後でテンションを高めることができます。この「思い入れ」描写ができる場は、第一幕が最初で最後。ストーリーが始まってから、全体の25%あたりまでで描いておきましょう。

 

第一幕の終りでプロットが大きな転機を迎えれば、ストーリーは一気に加速します。そうなってからでは人物の状況説明ができにくくなってしまいます。